2009年7月24日
第5章 木材の材質劣化と劣化防止
本章では、おもに生物的原因による材質の劣化とその防止(防除)について述べる。生物的劣化には微生物による劣化、昆虫類による劣化、海虫類による劣化がある。
5.1 木材を生物的に劣化する3大要因
① 菌類(白色腐朽菌、褐色腐朽菌、軟腐朽菌)による劣化:
木材を劣化する主な菌類はすべて真菌類(True-fungi)に属し、なかでも担糸菌類(Basidiomycetes)と子のう菌類(Ascomycetes)と不完全菌類(Fungi Imperfect)が、木材に大きな損害を与える。担糸菌(たんしきん)類には、白色腐朽菌類(white rot fungi)と褐色腐朽菌類(brown rot fungi)と軟腐朽菌類(soft rot fugi)とがある。
白色腐朽菌類は、俗にキノコまたはサルノコシカケと呼ばれるもので、シイタケ、マツタケ、マイタケなどの食用菌類もこの菌類の仲間である。白色腐朽菌類は、菌糸の体外に分泌する酵素の働きによって木材(主に広葉樹材の)細胞壁成分を分解する。菌糸は細胞内腔中を壁面に沿って伸展しながら、まず充填物質のリグニンを分解、除去し、続いて露出した骨格成分のヘミセルロースやセルロースを単糖にまで分解し、それを栄養源として生きている。白色腐朽菌類は菌糸に接した近傍の細胞壁部分から侵蝕分解する(酵素の壁中での拡散範囲が狭い)のが特徴であるため、分解に伴う重量(質量)減少率にほぼ比例してセルロースの重合度や木材の引張強度が低下する。劣化を受けた木材は白色化することから、この型の菌類を白色腐朽菌類と呼ぶのである。白色腐朽菌類はキノコ栽培の主役ではあるが、住宅用木材を劣化させることは少ない。
これに対して褐色腐朽菌類もキノコ(子実体)を形成するが、これらの子実体は食用にはならない。褐色腐朽菌類も菌糸は木材(主に針葉樹材)内腔中を壁面に沿って伸展するが、菌糸に接触している細胞壁部分の形態的な変化はほとんどなく、白色腐朽菌類のような侵蝕跡も認められない。しかし菌体外に分泌される強い酸性物質は、壁中にかなりの広い範囲にまで拡散、浸透することによって骨格成分のセルロース、ヘミセルロース類が加水分解し、解重合し、ついに単糖にまで分解する。壁中で分解された糖類を菌糸は摂取して生きている。褐色腐朽菌類の腐朽様式からも想像できるように、この菌類による材質的劣化(セルロースの重合度の低下や引張強度の低下)は、僅かな重量(質量)減少でも極めて大きいのが特徴である。10%の重量減少で重合度は元の4分の一にまで低下する。このため、褐色腐朽菌類が劣化した木材の表面には特有のチェックパターン(繊維直角方向のひび割れ)がみられ、材色もリグニンだけが遺存するため濃褐色になる。このため、この型の菌類は褐色腐朽菌類と呼ばれる。褐色腐朽菌類は、広葉樹材よりも針葉樹材を劣化することが多いため、住宅用木材の被害は甚大である。とくに、寒い地域において湿気や暖気を帯びる住宅部材での被害が多いため、実害菌の筆頭である。
軟腐朽菌は、劣化のタイプとしては白色腐朽菌類に似ているが、菌糸の生活様式が特異である。この型の菌糸は、まず木材細胞壁中に侵入し、壁層中のミクロフィブリルの配列方向に沿って紡錘形の空洞を形成しながら伸展する特性がある。空洞の形成は菌体外酵素による壁成分の分解作用による。とくに二次壁中層(S2層)内に侵入した菌糸によって形成された空洞(cavity)は、S2層のミクロフィブリル傾角の測定に利用されることもある。この型の菌類の生活スタイルからも分かるように、軟腐朽菌は高含水率材の中でも平気で生活できる。びしょ濡れの木材が腐っている場合には、軟腐朽菌が原因であることが多い。
菌類腐朽抵抗性の高い木材としては、針葉樹材ではヒノキ、ヒバ、ネズコ、サワラが、広葉樹材ではヤマグワ、ケヤキ、クリ、ニセアカシア、ヤマザクラなどがある。
② シロアリによる劣化:
木材の昆虫害には、未乾材(伐採直後の生材に近い材)食害虫と乾材食害虫と湿潤材食害虫によるものがある。未乾材食害虫にはカミキリムシ類、タマムシ、キクイムシ類、シンクイムシ類などが、乾材食害虫にはヒラタキクイムシ類やシバンムシ類が該当する。ここでは湿潤材食害虫の代表であるシロアリ(termaite)について述べる。
シロアリはアリよりもむしろゴキブリに近い種で、世界中に生息している。日本にはイエシロアリ、ヤマトシロアリ、サツマシロアリの3種が棲息する。イエシロアリは静岡以西の温暖地域に生息し、お堂や家屋に甚大な被害を与えている(別名、「堂倒し」とも呼ばれる)。ヤマトシロアリは、イエシロアリよりやや小ぶりであるが、寒冷に対して抵抗性があり、わが国の全土に分布しているため、家屋、電柱、枕木などに腐朽を伴って大きな被害を与えている。イエシロアリよりもやや不潔なところに棲息する。
シロアリは、その体内(腸内)に共生している原生動物の助けを借りて、摂取した木材片を分解し、栄養源としている。そのため職蟻のシロアリの顎(アゴ)はよく発達しており、強靭である。古川らの研究によれば、イエシロアリ大顎の鋏のような切刃部分はマンガン元素で補強されており、最大340ミクロンの細胞壁小片までを噛みちぎることができる。特に早材仮道管壁はシロアリの大好物で何の抵抗もなくサクサクと喰いちぎるが、晩材仮道管は壁が厚いだめ、噛みちぎる事ができず、仮道管を一本ずつ引き剥がし、捩じ切って少しずつ食べている。そのため、早材部分は年輪に沿って選択的に早く消失するが、晩材部分はリング状にそのまま残り、その晩材部には年輪間を貫通した小さな穿孔があいている。
シロアリに抵抗性のある木材としては、ヒバ、コウヤマキ、イヌマキ、スダジイ、ビャクシン、イスノキ、タブノキなどがある。
③ フナクイムシによる劣化:
海中で木材を食害する動物を総称して穿孔海虫類(marine borers)と呼んでいる。海虫類の主なものはフナクイムシ類(2枚貝の一種)とキクイムシ類(節足動物甲殻類)である。海中に浸漬した木材は1シーズン(ひと夏の間)でかなりの食害を受ける。3年もすれば、海中に放置した木材はこれらによってほとんど食い尽くされる。キクイムシとフナクイムシは共同で木材を食害しているようであるが、その詳細は分かっていない。
古川らの研究によれば、フナクイムシの頭部にあるヘルメットのような貝殻の表面には突起した切刃が整然(鋸刃のようにアサリが付いている)と並んでおり、しかもその並びは途中で直角に曲がり、刃列間の溝のところを通って切り屑(食糧元の木材小片)が効率よく口器に運ばれる仕組みになっている。自然の造形の美しさには驚かされる。
フナクイムシに抵抗性のある木材は、コウヤマキ、マキ、イチイガシ、アカギ、リュウガン、チークなどである。
5.2 生物的劣化の評価と防除
生物的劣化度の評価方法もその防除方法(使用する薬剤から薬剤による処理方法、処理効果の評価法)もすべてがJISやJISに準じた規格によって規制されている。
① 腐朽度の評価試験:
腐朽評価試験方法は、日本木材保存協会規格JWPAS 第1号-1992、及び 日本工業規格JIS A 9201-1991による。
1)供試材と供試菌、腐朽期間(12週間)と温湿度条件:
ス ギ・・オオウズラタケ(褐色腐朽菌)、26±2℃、70%RH以上
ブ ナ・・・・カワラタケ(白色腐朽菌)、26±2℃、70%RH以上
アカマツ・・・・ナミダタケ(軟腐朽菌類)、20±2℃、 70%RH以上
2)防腐性能の判定基準(JIS A 9201):
無処理試料の重量(質量)減少率が、オオウズラタケで30%以上、カワラタケで15%以上の試験条件下において、処理試料の重量減少率がいずれの供試菌においても3%以下であるとき「処理効果あり」と判定する。
② 蟻害度の評価試験:
蟻害度評価試験方法は、日本木材保存協会規格 第11号-(1)室内試験法による。
1)供試材と供試虫、食害期間(21日間)と温湿度条件:
クロマツかアカマツの辺材・・・イエシロアリ(職蟻150頭、兵蟻15頭)、28±2℃、適度な保湿の容器中で飼育する
2)蟻害性能の判定基準:
無処理試料の重量(質量)減少率が20%を超えるとき、処理試料の食害による重量減少率が3%以下であれば「処理効果あり」と判定する。
③ 現行(一部は過去)の防腐剤や保存剤:
従来の加圧用薬剤には次のようなものがあるが、いずれも薬剤の安全性においてまだ問題がある。
1)無機系・・銅-クロム-砒素系化合物【CCA】、銅-クロム-ホウ素、【CCB】、銅・クロム・フッ素系【CCF】、トリブチル錫フタレート【TBT】
2)有機系・・アルキルアンモニユム系【AAC】、銅・アルキルアンモニウム【ACQ】、ホウ素・アルキルアンモニウム系、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛
3)油性系・・クレオソート油
4)その他・・有機リン系、カーバメイト系、ピレスロイド系など
④ 安全な防除法:
古川らが開発したキトサン系木材保存剤、特にキトサン銅複合体(これをCCCと称する)の安全性は、以下の試験結果に見られるように、経口・接触急性毒性は極めて低く、しかも魚類急性毒性の結果に示すとおり、CCCは水に溶け難く、毒性が発現しにくい、のが特徴である。CCCの防腐性能、耐蟻性能、耐フナクイムシ性は、環境木材研究所(「環境」「木材」の2語で検索)のホームページ(http://www.kankyo-mokuzai.jp/)を参照されたい。
1)CCC薬剤の経口・接触急性毒性:(財)食品農医薬品安全性評価センターで試験証明済み。
・急性経口毒性(LD50) >3000mg/kg(ラット)・・砂糖並みの安全性!
・眼一次刺激性:陽性(ウサギ)・・目に入れないこと
・皮膚一次刺激性:陰性(ラット)・・皮膚に安全!
・皮膚感作性:陰性(ウサギ)・・皮膚に安全!
・復帰突然変異性:陰性・・遺伝的変異を起こさない!
2)CCC作業液の魚類急性毒性( LC50 ):
・CCC作業液:薬剤濃度20.6ppm(Cu換算濃度1.6ppm)(ヒメダカ96時間試験)
・タナリスCY作業液:薬剤濃度3.2ppm、(Cu換算濃度0.3ppm)(コイ稚魚96時間試験)
・硫酸銅水溶液(標準試験):薬剤濃度2.0ppm、(Cu換算濃度0.5ppm)(ヒメダカ96時間試験)。
(完)


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